こだわりの連載技術エッセイ
第2回 IT世界を読み解く3つのキーワード(その1) 2004年5月27日

筆者はかつて量子力学を学んだことがあり「一見複雑に見える現象も簡単な法則で説明できる」と信じている.複雑に見えるのは事象の本質を見ていないか見る角度が誤っているからだと思う.
複雑に見える結晶や分子構造もある適切な角度から見れば規則正しい構造が現れる.
例えばコンピュータのGUI(Graphic User Interface)は人間がコンピュータのより使いやすい使い方を考え付いたというよりはコンピュータが高価な時代には中央に設置されているコンピュータをタイプライターのような端末で使用せざるを得なかったものが高速なCPUと大容量のメモリーが安価に提供されそのコンピューティング・パワーが個々のユーザの為に使えるようになったのが重要なキーである.簡単なマウスの処理にしてもコンピュータは画面上のマウスのポインタの位置を常にポーリングし続けているだけであって安価で高性能なコンピュータの実現によるインテリジェンスの分散は人間とコンピュータの関わりを根底から変えてしまった.

そのような観点から現在のIT世界を見ると以下の3つのキーワードが見えてくる.
(1) 半導体技術の進歩
(2) 市場拡大によって成り立つビジネスモデル
(3) コンピュータと通信の融合

以下にそれぞれのキーワードについて述べる.
(1) 半導体技術の進歩
半導体技術の進歩を書く前に先ず人類が半導体を発見したことがポイントである.半導体とは条件によって電流が流れたり流れなくなったりする性質を持つ物質で増幅作用やスイッティング作用を持つ個体素子である.
この稿では半導体の詳細な説明は行わないが半導体の発見と応用技術はコンピュータ発展の基礎技術である.しかも半導体には他の同様の作用をするデバイスには無い
(a)固体素子で寿命が長い,
(b)微細技術による高集積化が可能,
(c)発光作用がある
等の優れた性質がある.
筆者が人類最大の幸運と思えるのはその半導体がシリコン(Si)によって実現されたということだと思う.
シリコンの特徴は
(a) クラーク係数((地殻中の元素の含有率)は2位で27.7%と酸素についで多く含まれている,すなわち地球上に酸素に次いで多く存在する元素であるということ.もし半導体が貴重な物質でしか実現できなかったら今のような大量に安価なコンピュータが市場に溢れるような事態は起こりえなかった.
(b) 酸化シリコンが良好な絶縁膜を形成する.一般に半導体に電気的な作用を実現させる場合にはP型半導体(電荷を運ぶ「キャリア」に正孔(ホール)と呼ばれる電子の欠落が使われる半導体で高純度のケイ素(シリコン:Si)の中にケイ素より価電子数の少ない3価元素のホウ素(B)を加えることにより生成される)とN型半導体(電荷を運ぶ「キャリア」に自由電子が使われる半導体で高純度のケイ素(シリコン:Si)の中にケイ素より価電子数の一つ多い5価元素のリン(P)などをごく微量混ぜることにより生成される)を組み合わせた構造をとる.
P型やN型の半導体はシリコンの基盤の上のP型,N型にしたい部分以外をマスクで覆い高温雰囲気でホウ素やリンを含んだガスを反応させてP型,N型半導体領域を形成する.
シリコンの場合には非常に幸いなことに表面を酸化させて二酸化シリコンの膜を作ると二酸化シリコンは安定した絶縁体なのでフッ酸で処理することにより容易にマスクを作ることが出来る.しかもこの二酸化シリコンの膜は上に配線の為の金属を蒸着することも可能であるし半導体を外部から保護する役目も果たす.(プレーナープロセス特許 有名なキルビー特許がゲルマニウム基盤の上にICを作るのに対して本特許は酸化シリコン膜の利用という点で特許の発明時期は遅れたが優れていると筆者は考える)
筆者はシリコンが半導体として特筆すべき性質を持っているということは天地を創造した神の人類への最大の贈り物の一つだと思っている. 余談になるが地球上のどこにでも存在するシリコンを材料としたメモリーチップは同じ質量のプラチナの約10倍の価格で販売されている.これは正に現代の錬金術だと思う.
(c) 力学的,温度変化に対して安定した物質である.シリコンの結晶構造はダイヤモンドの結晶構造(面心立方:図1参照)と同じで立方体の各頂点(8個)と側面の正方形の中央(6個)に原子が存在して固く結合している.

このような半導体材料として優れた性質を持つシリコンに巡り会えた後,半導体はどのように進化するのであろうか.
インテル社の共同設立者の一人ゴードン・ムーア(Gordon E Moor)が1965年に唱えた「ムーアの法則」が有名である.
『半導体チップの集積度は、およそ18カ月で2倍になる』
注目すべきはこの法則は経験則であり理論的な裏づけがあるものでは無いということと更に驚くべきことに提唱されてから現在までこの「ムーアの法則」が成立しているということである.
CPUの性能についても集積度の向上だけに寄るものでは無いがこの18ヶ月で倍という「法則」が(むしろ集積度よりも正確に)成立している.


ムーアの法則はたびたびその限界を指摘されながら結果的に成立してるのが興味深い.
コンピュータのハードウェアの性能は指数関数的に向上し価格は下がると言う人類がかつて見なかった製品であることがIT世界を読み解くキーワードの一つだと筆者は考える.
おまけにハードディスクの性能向上のグラフを以下に示す.(ムーアの法則よりも成長率は高い)
また最近はLANにおいてもムーアの法則が成立するとも言われている.(続く)

(光)
<< BACK NEXT >>
Copyright 2003 ASIA NETWORK, Inc. All rights reserved.