こだわりの連載技術エッセイ
第3回 GPSって何だ?(2.測位の原理) 2003年4月16日

GPSは唯一の絶対位置を確認できるシステムです。地球の表面から約2万キロの円軌道を飛ぶ衛星18個で地球全体をカバーする構成ですが、 実際には予備の衛星を含め、24個の衛星で運用されています。GPS衛星には原子時計が搭載され、 正確なタイミングで信号を地球に向けて送信しています。原子時計とはセシウムの原子振動数を基にしたもので、 1967年10月に国際度量衡総会で時間を決める原器として定められたものです。 『セシウム原子の基底状態における2つの超微細準位間の遷移に対応する放射の9,192,631,770周期の継続時間を一秒とする』という内容です。 規定されているのが原子時(TAI)と呼ばれるもので、日本を含め多くの国で標準時を維持するために使われている原器となっています。

GPS受信機は衛星からの信号と自分の時計との時間差から衛星との距離を計測します。 ちなみに電波は1秒間に約30万km進みます(299,792,458m)。測位は衛星の位置が正確に判っていて、そこからの距離が得られると、 受信機は衛星の位置を中心としたその距離を半径とする球の表面のどこかにあると断定できます。 異なる位置にあるもう一つの衛星からの距離が判れば、受信機の位置は二つの球が重なり合う円周上にあると断定でき、 これにもう一つの衛星が加わると、前述の円と新たな球の表面が重なりある2つの点が得られ、そのうち地球に近い方となります。 さて、GPS受信機の時計ですがコストの関係で原子時計ではなく水晶時計が使われます。 水晶の精度はせいぜい10-5程度、原子時計とは比べ物になりません(原子時計は10-13程度の安定度がある)。 原理では3個の衛星からの距離から位置を確定できるのですが、これはGPS受信機の時計も原子時計の場合で、 水晶時計では精度を補償するためにもう一つの衛星からの信号が必要になります。 緯度と経度だけがわかる2次元測位には3個の衛星、加えて高度もわかる3次元測位では4個の衛星からの信号が必要になります。 この2次元測位は受信機が地球表面にあると仮定して位置を求めるものです。

GPSで位置を知るには少なくとも3個の衛星からの信号を受信(2次元即位)できなくてはなりません。 トンネルの中や地下、また、高層ビル街でも衛星からの電波が届かないため測位ができなくなります。 加えて、GPSで判るのは位置だけであり、方位はわかりません。方位がわかるのはは受信機が高速で移動している場合だけで、 少なくとも時速30km以上の速度が必要となります。

気になるのはGPS測位で得られる位置の精度、民間に開放されているのは1.57542GHz(L1と呼ぶ)のC/Aコードで、 これだけの場合は実効値で±25〜30mになります。GPS衛星からはもう一つ、Pコードと呼ばれるものが1.2276GHz(L2と呼ぶ)で送信されています。 こちらが軍事用です。軍事用受信機では民間用の10倍位精度が良くなると聞いたことがあります。 また、民間用のL1は有事の際に誤差が増加する変調が加えられる(Selectable Availabilityと呼ばれ、SAと言われる)ようになっており、 場合によっては100m位の誤差が出る場合もあります。測位精度は利用する衛星の位置関係でも大幅に影響を受けます。 この精度を表すのにDOPと呼ばれる数値が使われ、3次元測位の場合はPDOPという具合に頭に何を意味するのか区別する文字(この場合はPosition)を加えます。 カーナビにおいてもGPS受信機の受信状況をモニタできるものがあり、そこにはこのDOP値が表示されます。 この数値が小さい方が高精度となります。

(達人)
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