こだわりの連載技術エッセイ
第8回 日本の地図 2003年7月29日

第二次世界大戦前までは多くの国で地図は重要な国家機密でした。日本でも地図の管理は陸軍が行っていたようです。 誰でも正確な地図を入手して使えるようになったのは比較的最近になってからになります。 地図は国土を正確に把握するためのもので、平面図にした時に誤差が最も少なくなるように作られています。 ご承知の通り、地球は球体、正確には楕円体ですから、その表面を平面に展開すると北側が実際より大きく、 また、南側は実際より小さくなってしまうのは仕方がありません。 できるだけ誤差を少なくするには国土の中心に接する円筒に投影するのが良いことになります。

日本はこのような方法で独自の地図を作ってきました。これを日本測地系と呼んでいます。 世界各国にはそれぞれの測地系を持っている国も少なくありません。 というのも、GPSが出現するまで正確に緯度経度を得るのはとても困難だったためです。 以前は太陽が真南を向く時刻から経度を求めるのですが、そのためには正確な時刻が必要になります。 地球の基準は英国のグリニッチです。ここで太陽が真南に来る時刻が12:00GMTとなりますが、この時日本の明石で、午後9:00GMTちょうどになるはずです。 しかし、これは日本にある基準時計が英国にある時計と全く同じ時を刻んでいる場合に限られます。 すなわち、全く別の場所にある時計を正確に同じにするのはとても難しいのです。 私たちが知っている最も高速な光、電波も毎秒約30万kmの速度なので、無線で同期を取るにしても必ず誤差が含まれてしまいます。

世界中の基準時計を一致させたのが米国のHP社(現在はAgilent Technology社)と聞いています。 同社が開発したセシウム原子時計を飛行機に乗せて各国を回り時計を合わせた。これはGPSが開発される前です。 これでやっと基準となる時計が正確になったわけです。世界中がセシウム原子時計を時の基準として定めたのが1960年の国際度量衡総会ですから、 その頃かと思われます。それ以前は地球の自転周期を基準にしていました。地球の自転周期はわずかに長くなっています。 実際の地球の自転周期と原子時計の誤差は年に一回、うるう秒として補正されています。

話が脱線しましたが、日本の地図の基準はどこにあるのでしょうか。 日本の標準時は明石市を通る東経135°となっているのですが、地図の基準点は東京都港区麻布台にある緯度経度原点です。 ここは1918年に東京天文台があった場所です。場所はロシア大使館の南側です。

1918年にこの原点を東経139度44分40秒5020北緯35度39分17秒5148と定めました。 また山の高さなどを海抜○mなどと呼びますが、 実際の海面は月の引力の影響(干潮と満潮)で変動するので実際の海面からの高さではないと容易に推測できます。 場所は東京都千代田区三宅坂、桜田門近くにある尾崎記念公園の中にある水準原点です。 明治24年(1891年)に東京湾の海面観測を基に海抜24.5mと定めましたが、関東大震災後に24.4140mに改められています。

2002年4月、測量法が改正され、日本の地図は世界測地系を使うことになりました。 東京都港区麻布台にある経緯度原点は、東経139度44分28秒8759北緯35度39分29秒1572と改められています。 それまで日本で使われてきたのが日本測地系と呼ばれるものでした。現在の世界測地系はGPSで使われているもので、 東京測地系の地図とGPSを組み合わせるには変換する必要がありました。 この法改正以降の測量は世界測地系で行われるのですが、全国レベルで世界測地系による地図が実現するのは少し先になりそうです。 現在販売されている道路地図やカーナビは日本測地系のままであると思われます。 カーナビには緯度経度を入力して目的地を設定する機能が付いていますが、 この緯度経度はカーナビで採用されている測地系のものです。日本測地系に世界測地系の緯度経度を入力すると数百mの誤差がでるので注意が必要です。

(達人)
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