こだわりの連載技術エッセイ
第4回 デジカメの不思議 2004年7月6日

デジカメは近年急速に高機能,低価格化して普及してきた.
その理由は前稿の「IT世界を読み解く3つのキーワード」の拙文を読んで考えていただければと思う.
ここでは普段何気なく思っているデジカメの技術の不思議についていつくか述べさせていただく.

1.解像度の不思議
デジカメの仕様の中でも最も注目されるのが解像度ではないかと思われる.
以前は銀鉛フィルムのデジカメに対する最大の長所は解像度であったのが昨今の半導体の進歩によりその差は急速に縮まり今や解像度に関しては同等と言われるようになってきた.
(銀鉛フィルムの解像度は一説によれば300万から600万画素でスキャナーの場合A4サイズの原稿を1440pbiで読み込むと約300万画素となる) 銀鉛フィルムの場合には分子レベルで光に反応するので今の半導体技術に改めて驚く.
ここで誤解の無いようにしていただきたいのはデジカメの解像度は素子の画素数だけではだけでは無くレンズの収差やピントの正確さにより特に画素数が大きくなるとむしろ光学系の性能が重要になるということである.撮像面に至るまでに画像がボケていては何にもならない.
最近の高機能デジカメにも銀鉛一眼レフと同じ特殊低分散レンズや非球面レンズや手ぶれ補正が付くようになったのは折角の高画素数を有効に使うためである.

では一般にデジカメの解像度とは何を表しているものだと読者諸兄は思われるであろうか.
撮像素子(イメージ・センサー・デバイスとも言われる)はCCDにせよCMOSにせよフォト・ダイオードという光を感じる半導体素子から構成されている.CCD,CMOSは半導体の構造の違いでCCDは半導体表面の配線の面積が少ない(30%くらい)ので感度に優れておりCMOSの方は動作電圧を低くできるので(1.数ボルトくらい)消費電力に優れている.
1個のフォト・ダイオードは光の強さを電流に換える動作をするが色は区別することが出来ない.そのためフォト・ダイオードの前に光の三原色のフィルタを置いてそれぞれの色の強さを電気信号に変換している.一般にはRGB(赤,緑,青)の三原色のフィルタを使用するがそれらの補色フィルタを使っているものもある.一般にはフォト・ダイオード4個を1組にしてRGBG(Gが2個)の構成のそれぞれのフォト・ダイオードの信号からその点の色のデータを演算により求めている. とここまで読んで気が付かれたと思うが,例えば500万画素のデジカメはフォト・ダイオードが500万個あるのかそれともある1点の色を計算する為の4個1組のフォト・ダイオードが500万組あるのか?実際の画素数は125万個なのか実は2000万個のフォト・ダイオードが必要なのか?

実際はRGBGの3色でフィルタされた各フォト・ダイオードの1点とその周りのフォト・ダイオードの値からその1点のRGB3色のデータが計算される. (下の図参照) イメージ
この処理を補完処理という.
(CCDのフォト・ダイオードをハニカム状に配置して補完処理の情報を増やし解像度を上げた素子も製品化されている)
左側の生データをRAWデータ(そのままか)と言い補完された各点のRGBデータは一般的にはJPEGの形式で出力される.最近の一眼レフタイプや高性能のデジカメにはRAWデータを出力してパソコン上で補完処理をするものもある.この場合の補完処理を銀鉛写真になぞらえて現像処理と言っている.
500万画素のデジカメには500万個のフォト・ダイオードがあり自分のポイントにあたった色のデータと周りの異なった色のデータとを補完して自分のポイントの色のデータ(RGB)を生成している.

解像度にはもう一つパラドックスがある.
「普通の人は自分のデジカメで撮った写真を撮影時の解像度で見ることが出来ない」
パソコンの解像度はXGAが普通でありXGAを画素数に換算すると約80万画素(1024X768)くらいでしかなく,1440bpiで印刷してもA4サイズで300万画素くらいにしかならない.
ゆえに普通のパソコン環境のユーザが500万画素の写真を見ようと思ったらディスプレイにオリジナルの画素数で表示しその一部を「群盲像を撫でる」状態で見るしか無い.(特に液晶ディスプレイの場合)
デジカメを購入する際には画素数の多さばかりに気を取られないで自分の使い方に合ったものを選ぶべきというお話である.

2.デジカメ焦点距離の謎
 ここで言う焦点距離とはレンズの焦点距離である.
実はレンズの性質を表すのに焦点距離よりも画角が本質的な数字である.同じ焦点距離でもフィルムのサイズや撮像素子の大きさが違えば写る画角も当然違ってくる.例えば一般的なデジカメは35mmフィルムのサイズよりも撮像素子の大きさが小さいので画角が狭くなり同じ焦点距離のレンズはより望遠レンズとしての性質を持つことになる.
例えば35mmサイズとAPS−Cサイズを比べると同じレンズを使用したときAPS−Cではレンズの焦点距離が1.6倍程度になった画角となる.最近一眼レフ型デジカメでAPS−Cサイズのものも販売されていて従来の銀鉛一眼レフの交換レンズの流用が出来るのは利点であるが広角レンズは新たに購入しなければならない場合も出てくる.
特に35mm換算で28mmレンズは筆者の標準レンズと言っても良い位でこのレンジの画角のレンズが無いと個人的には使いにくい.

焦点距離28mmにこだわってデジカメの製品スペックを見ると意外に少ない.というかほとんど存在しない.最近ようやく高機能レンズ一体型のデジカメの広角端が28mmになってきたくらいである.
(実際に写真を撮ってみるとすぐに実感するのが意外に望遠レンズは使わず被写界深度が深く何でも撮れてしまう広角レンズが便利なことが多い) この理由はなんであろうか.
銀鉛フィルムに比べて構造が複雑な半導体撮像素子は斜めから入ってくる光に対して感度が急速に鈍る性質を持っている.レンズ自身にもレンズの外側を通過する光に対して性能が落ちる性質(周辺減光)が有るために小さな面積の撮像素子と画角の大きなレンズの組み合わせは技術的に難しいからである. 最近のデジカメで28mm相当の画角のレンズの搭載が可能になったのは半導体の集積度の向上というよりはより大きな撮像素子を歩留まり良く製造出来るようになったことが大きく寄与していると思われる.
同じ画素数ならば撮像素子のサイズが大きい方が感度も高くレンズの設計も容易になるが歩留まりが悪いために価格は高くなる. 一般に半導体の歩留まりは半導体ウェハ表面に分布している結晶の格子欠陥と円形ウェハから取れる四角形チップの効率の為にチップ面積が小さいほど向上する. レンズもサイズが大きいものは製造コストが高くなり小さいものはより高い工作精度が要求される.
このようにデジカメを製品化する際にはサイズと解像度とコストをその目的によって上手く調和させるような作業が必要になる. 購入側もその開発側の意図を感じることが大切であろう.

3.一眼レフ型デジカメの謎
 最近一眼レフ型デジカメの価格が低下してきて一体型デジカメの高級機と同じ価格帯になった.
今改めて「一眼レフ型デジカメって誰のため?」ということを考えてみたい.
一眼レフ型のデジカメの特徴は
・レンズ交換が出来る
・銀鉛フィルムの一眼レフとレンズを共有出来る
・(一般に)画素数が多い
・撮像素子のサイズが大きい(今はAPS−C,4/3インチタイプが主流で将来は35mmサイズか)
等が比較的良い点として考えられるが利点とは考えられない点も無い訳では無い.
・高価格
・EVF(電子ビュー・ファインダー)では無い
・測光面,焦点測定面が撮像素子の前では無い
・ミラー跳ね上げの為にレンズ後端の長さに制限がある(銀鉛フィルム一眼レフには使えない一眼レフ型デジカメ専用のレンズもある)
・(一般的に)重い
という事実があるのも確かである.

ではどのような人に一眼レフ型デジカメが適しているのであろうか.
・既に銀鉛フィルム一眼レフの機材をたくさん持っている人
・プロの写真家
・新しいものが好きな人
等が考えられるが自分のお金で自分の好きなものを購入することに筆者がとやかく言う問題で無いことも事実である.

(光)
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